どんなに主張に主義主張があっても、それが社会通念上正しいと思われるものであったとしても、議会人たるもの泣いたらそこでおしまい。
そこで言葉に説得力を失う。言葉しか武器がない議会人において、効果的な言葉と冷徹なロジックを失ったら、何を武器に戦えばいいのか。
自分でも気を付けないといけないと改めて思う。

問題となったのは、都議会や兵庫県議会など、地方議会の議員の涙ですが、自らの行動に関する指針のためのロジック整理という意味でも、国会議員を例にとり、以下、議会人のふるまい方について、私の考えを述べます。

議会人は、有権者の代表です。憲法43条が全国民の代表と規定しているとおり。いわゆる命令委任の禁止(すなわち自由委任又は代表委任)を意味していると解されており、基本的に、次のように考えられています。
①国会議員は、選挙方法のいかんを問わず、すべての国民を代表する者として、すべての国民のために活動すべきである。
②国会議員は、自分の選挙区の選挙人の個別具体的な指示に法的に拘束されることなく、自分の良心に基づいて自由に意見を表明し、議決する権利を有する。

議会人と有権者との間の関係は、上記のとおり委任関係になるわけだが、こういった委任関係には、必ず受任者(エージェント)と委任者(プリンシパル)の間に情報の非対称があります。その中で、いわゆるエージェンシー問題が発生します。
エージェンシー問題とは、端的に、受任者(エージェント)が、委任者(プリンシパル)の利益のために委任されているにもかかわらず、委任者(プリンシパル)の利益に反して受任者(エージェント)自身の利益を優先した行動をとってしまうことを意味します。
受任者と委任者との間に情報の非対称がある限り、受任者は自己の利益を追求するインセンティブをたくさん持っています。セクハラヤジも政務調査費における領収書なしの多額交通費の出費も、基本的には情報の非対称を利用した(すなわち、議会での活動なんて見られていないとか、選挙の時だけ良いことを言ってりゃいいんじゃないか、と思っている)、モラルハザードの一つなんだろうと思います。
実は、議会という制度をそもそも設計するには、こういったモラルハザードが起きることが人間の常であるという開き直りが必要だと思います。べき論(モラル)では人間は動きません。「人間はインセンティブと性格の奴隷である」と私の元上司が「会社は頭から腐る」という本の中で言っておりましたが、私はその通りであると思っています。

いかに、議会人がモラルハザードを起こさないように制度設計するか、という議論がされてしかるべきです。
いわゆるゲーム理論の中の、契約理論という考え方が応用できると思います。
一般的には、エージェンシー問題の解決方法として2つ程度考えられるとされています。
①受任者(エージェント)と委任者(プリンシパル)との情報の非対称を解消することを、委任契約の内容とすること。
②受任者(プリンシパル)が委任者(エージェント)に対して、委任者(プリンシパル)の意に即した行動をした場合には、正のインセンティブを与え、逆に受任者の意に反した行動をした場合には、負のインセンティブを与えることを委任契約の内容とすること。

まぁ、これを議会人と有権者との関係に置き換えるのはなかなか難しいのですが、
私自身が自分なりに試行錯誤しながら、トライをしようとしているのが、
まず、
①議会人たる椎名つよしの日々の活動(財務に関する部分までも含めて)を、割と詳らかに公開して、常に批判の対象になりうる状態にしておくこと。
②有権者の側に、きちんと自分を含めた個々の議会人の活動の状況をチェックしてもらう、というお願いをする。
③有権者の側に、自らの選んだ議会人がどのような活動をしたのかをきちんと見ていただいて、選挙に臨んでいただき、自分に代わって国政の議論を託する者としてふさわしいかどうかを判断してもらう、という判断方法の提示をする。

ということぐらいです。
正直、議会人に対する有権者からの上手いインセンティブ設計というのは、あんまり思いつかないのが正直なところです。このあたりは、今後のゲーム理論などの研究者の友人とディスカッションをしながら、自分なりの解決策を見出していきたいと思います。

おそらく、私自身のインセンティブ構造を見ると、現時点においてはモラルハザードを起こさない方向にインセンティブが向いています。
すなわち、マックス・ウェーバーが、「職業としての政治」の中で、職業政治家について、「政治によって生きる人」と「政治のために生きる人」という分け方で区分した記載をしていました。主な生活のための収入源を「政治」におくかそれ以外におくか、という話だったと記憶していますが、弁護士であるがゆえに、基本的にはウェーバー的区分による「政治のために生きる」職業政治家でいられると思っています。要は、食べていくための仕事として考えたときに、自分自身は政治の仕事でなくても食べていくことが十分にできると思っている、ということです。他方、自らの職業基盤である弁護士資格を失うことは、やはり問題であるので、自らが法的に怪しいことをすることについては、強烈なディスインセンティブを持っています。その裏返しとして、自らが国会議員としての透明性を高め、かつ適法な行動をするインセンティブを持っています。自分自身を少し離れた距離から見てみると、政治家としては比較的稀有なインセンティブ設計になっていますね。
しかし、収入とそれによる生活に執着をしないからこそ(失うものがないので)、自分が自らの信念に基づいて発言をしていくことができると思っています。自らの議会人としての責任を果たしていくためにも、こういう開き直りは非常に大事だと思います。

当然ですが、すべての議会人のインセンティブ構造が私と同様だとも思いません。むしろいつの間にか「政治によって生きる」職業政治家、になってしまっている人も多いように思います。だからこそ、もう少し議会人が有権者の意をくんで行動することがきちんとプラスマイナスで評価されるようなインセンティブ構造になるよう、ゲーム理論などの研究に基づく、理論的なルール作りをしなければならない、と思っています。

取り留めもないですが、昨今の様々な地方議会における議員の振る舞いを見て、自らの議会人としてのあり方を振りかえるいい機会となりました。今後とも、自らの議会人としての責任を果たすべく、頑張りますし、より良い制度について研究していきたいと思います。