選挙は戦いです。

大学院2年目リチャード・ベッツ先生(軍事戦略の専門家。リアリズム安全保障観の大家)のWar, Peace and Strategyという授業で孫子を読みました。今でも孫子とクラウゼビッツはリアリズム安全保障観の中の基本です。

今改めて思い返すと、謀攻編の最後「彼を知り己を知れば、百戦してあやうからず」というのは、けだし明言ですね。

企業戦略の分析フレームワークの3C分析でも競合を分析するのは、まさに競合が市場の変化にどのように対応して、どのように優位を築いているのか、を知ることが戦略立案の基本だということだろうと思います。

第47回総選挙において、競合候補がどのような努力の結果、当選という結果を導いているのか、という原因の分析をしたいと思います。競合候補が、①どのようなリソースを持ち合わせているか、②どのような結果を導いたか、③結果をもたらすために外部環境の変化に対してどのように対応したか、④抱えている課題、この4点を分析していきたいと思います。

I 民主党笠ひろふみ候補について

①リソースについて

競合候補の持ち合わせているリソースを個人・政党に分けていくつかの項目に分けて、分析してみますと、以下のような感じになるだろうと思います。

  個人 民主党
スキルセット 

 

 

 

 

 

 

政策展開

卓越した演説スキル

優しそうな見た目

聞き心地の良い声の質

11年間弛まず地元活動を行う継続性

社交的な性格

勝利に対する執念

若男女問わず話をできる政治経験

民主党生え抜きとしての信頼感

選挙経験・選挙に対するスキル

「人づくり無くして国づくり無しという」、教育に特化した地域住民にアピールしやすい政策展開

         

 

 

 

 

 

 

連合総研・民主党の政調組織による一貫性のある政策群

実績 4期11年の当選実績

民主党政権時代の文部科学副大臣

国対副委員長という党内の肩書と議院運営委員会理事という役職

2009年~2012年の民主党政権の経験
知名度 11年間の地元活動

平日毎日行う駅頭活動

3000枚近く存在する選挙区内にあるポスター

過去の政権担当経験から、逆風といえど、党に対する知名度はほぼ100%
資金力 年間3回行う2万円のパーティー(平成25年で300万円、320万円、700万円)

年間3000円の後援会会費(推定 500人前後)

野党第一党ということによる豊富な政党助成金プール
支援者 強固な個人サポータークラブ(推定 数千人)

松沢成文参議院議員から引き継ぎ、個人の魅力で更に発展させた後援会

党員・サポーター連合関係
スタッフ 秘書陣

後援会のメンバーによる手伝い

学生インターン他

(労組系団体の方々による手伝い)
飛び道具 松沢成文参議院議員

麻生区・多摩区地方議員(県会議員1名、市議会議員4名)

奥さま

野田元総理

岡田元副総理

枝野元経済産業大臣

細野元環境大臣

蓮舫元行政刷新大臣

改めて書き出してみると、候補者個人として強固な選挙基盤を持ち合わせている政治家と言えるでしょう。特に、最大の強みは、過去11年間継続的に地元を周り続けている候補者個人の選挙区内における知名度と強固な後援会そのものだろうと思います。

②結果について

選挙に置いては、当選こそが最大の結果であります。候補者個人が出した最大の結果は、第46回の総選挙において、民主党に対する大逆風にも負けずに小選挙区において勝ちきったこと、第47回総選挙においても、低投票率の中、与党自民党に対する超追い風が吹いている中でも小選挙区選挙において勝ちきったこと、と言えます。

以下に記載する通り、多摩区・麻生区においても、比例代表選挙における政党に対する投票を3万票近くも上回る個人の得票を得ています。各区共に個人票が比例票を1万5千票近くも上回っています。個人の魅力、スキルセット、個人の持ち合わせている後援会などが非常に強固であることがうかがえます。

第46回衆議院総選挙  (個人:67,448票 民主党:35,830票)

          (個人 多摩:32,596票、麻生:34,852票)

          (政党 多摩:17,299票、麻生:18,531票)

第47回衆議院総選挙  (個人:64,534票 民主党:35,697票)

          (個人 多摩:30,582票、麻生:33,952票)

          (政党 多摩:17,173票、麻生:18,524票)

③外部環境の変化にどのように対応したか

では、なぜ、候補者はこの2回の選挙における民主党への大逆風に対応することが出来たのか。どのように外部環境の変化に対応したのか、というのが非常に重要です。

対立候補の個別的な選挙に対する戦略対応そのものは知る由もないが、おそらく外形から推測するに、自分の後援会を信じる戦略だろうと思います。候補者本人が、11年間の活動の蓄積の結果、基礎票として読める票数で勝ちきれる、という考えでしょう。要するに、所属政党への逆風を個人の魅力と歴史・実績でカバーする戦略です。浮動票に依存せず、自ら又は松沢成文参議院議員の開拓し、自らが維持発展させてきた後援者を信じるという戦略でしょう。選挙序盤戦に次世代の党に移った松沢成文参議院議員を飛び道具として投入し、新百合ヶ丘駅で街頭演説を行わせることにより、従前からの後援会の歴史を再確認しています。訴えていた政策も、教育を基本とした持論を主として、野党としてのチェックアンドバランスと選択肢の提示を行っていくことが出来るのは民主党だけである、というスタンダードなものです。ある意味選挙の王道です。奇をてらったことをしていません。

そして、選挙にてアテにしていたと思われる基礎票がどの程度か、と言えば、前回、今回との2回連続で得票数がほぼ変わらないことから、この得票数を前提に基礎票を考えるべきでしょう。加えて、事前の世論調査の結果を参考にすべきです。この候補者は、第46回総選挙の大逆風の中でも67,000票、今回も64,000票を取っており、また事前調査の結果、民主党候補者に決めているとされた人は5万人強と言われていました。以上から考えると、基礎票は6万票前後と考えられます。

④競合の抱える潜在的課題

競合の抱える課題としては、いくつか例を挙げると次のようなものがあげられるでしょう。

・民主党に対する期待感の薄さと党勢回復への起爆剤が探し切れていないこと

・議運・国対という調整型職務の有権者に対する分かりづらさ

II 自民党中山のりひろ候補について

①リソースについて

同じように、競合候補の持ち合わせているリソースを個人・政党に分けていくつかの項目に分けて、分析してみます。

  個人 自民党
スキルセット

 

 

政策展開

優しそうな見た目

浪人期間中から合計5年間の活動

自民党生え抜きとしての信頼感

「アベノミクスを地方に」という、信頼できる政策展開

 

 

 

自民党の政調組織と役所による一貫性のある政策群

実績 1期2年与党の議員  
知名度 5年間の地元活動

2000枚近く存在する選挙区内にあるポスター

 
資金力 不明 政権党ということによる豊富な政党助成金プール
支援者 多摩区を中心とした町会コミュニティ  党員

農協、医師会、建設業関係他団体関係

スタッフ 地域の町会コミュニティの手伝い

秘書陣

菅官房長官の事務所からの派遣スタッフ
飛び道具 麻生区・多摩区地方議員(県会議員1名、市議会議員5名)

奥さま

安倍総理

菅官房長官

甘利経済財政担当大臣

谷垣幹事長

茂木選対委員長

小泉内閣府政務官

三原じゅん子女性局長

この候補者は、自民党の強固な組織基盤に立脚している政治家と言えるでしょう。特に、最大の強みは、多摩区の稲田地区や西生田地区を中心に町会組織が強固に機能している地区における地元のコミュニティあげてのサポートだろうと思います。

②結果について

選挙に置いては、当選こそが最大の結果であります。候補者個人が出した最大の結果は、第46回の総選挙において、2度目の挑戦で、自民党に対する順風に乗って小選挙区で民主党候補と接戦に持ち込み比例で当選したこと、第47回総選挙においても、与党自民党の候補者として超追い風に乗ったものの惜しくも民主党候補の経験と実績にはかなわず比例での当選を果たしたこと、と言えます。

以下に記載する通り、多摩区においては、政党に対する支持を6000~8000票上回る個人の得票を得ていますが、他方麻生区においては政党に対する支持とほぼ同じ程度から4000票の上澄み得票を得ています。自民党に対する追い風を上手に活用して当選していますが、個人としての上澄みは民主党候補と比べると多くは無いように思われます。

第45回衆議院総選挙  (個人:49,274票 自民党:45,396票)

          (個人 多摩:27,613票、麻生:21,661票)

          (政党 多摩:23,939票、麻生:21,457票)

第46回衆議院総選挙  (個人:58,370票 自民党:46,541票)

          (個人 多摩:32,911票、麻生:25,459票)

          (政党 多摩:23,348票、麻生:21,082票)

第47回衆議院総選挙  (個人:59,991票 自民党:53,617票)

          (個人 多摩:33,163票、麻生:26,828票)

          (政党 多摩:27,417票、麻生:26,200票)

③外部環境の変化にどのように対応したか

では、なぜ、候補者はこの2回の選挙において比例当選を果たせたのか。どのように自民党に対する超追い風という外部環境の変化に対応したのか、というのが非常に重要です。

対立候補の個別的な選挙に対する戦略対応そのものは知る由もないが、おそらく外形から推測するに、地元の政党の党員組織と自民党への風に乗る戦略だろうと思います。すなわち、基礎票をベースに、自民党の大物を飛び道具として投入することで自民党への風に影響される浮動層を取り込む戦略です。経験のない新人がベテラン議員に挑戦する戦略としては王道だろうと思います。第46回総選挙からの2年間で個人としての魅力を浸透させてきたと思いますが、2年という短期間では個人としての魅力を浸透させるには十分な時間とは言えず、風に頼る選挙になったのも致し方ないでしょう。飛び道具して、安倍総理を筆頭に政権を支えている重要人物を投入し、自民党に対する追い風を自らの力に変えていくという選挙でした。訴えていた政策も、安倍政権の経済政策を中心として、与党としての王道の政策展開です。奇をてらったことをしていません。

そして、選挙にてアテにしていたと思われる基礎票がどの程度か、と言えば、前々回の自民党に対する大逆風が吹いているときの得票数を前提に基礎票を考えるべきでしょう。加えて、今回の事前の世論調査の結果も参考に考えるべきです。この候補者は、大逆風の中で49,000票を取っており、また事前調査の結果、自民党候補者に決めているとされた人は5万人弱と言われています。以上から考えると、基礎票は5万票前後と考えられます。

④競合の抱える潜在的課題

競合の抱える課題としては、いくつか挙げると次のようなものがあげられるでしょう。

・自民党に対する期待感を自らの後援会組織の拡大につなげていくこと

・与党若手議員として、国会の表舞台で政策論議をしている姿が見えづらい

次は、以上を踏まえて、選挙に関する自らの候補者としての課題を分析していきます。