国会議員の仕事とは、①社会のルールである法律を作る、②法律に基づき行うべきことを実行するための予算を決める、③外国との間の条約を承認する、④国のリーダーである内閣総理大臣を選ぶ、ということがあげられます。
④は、日本が、国民が国会議員を選び、国会議員が政府のトップである内閣総理大臣を選ぶ(その結果、内閣は議会にのみ責任を負う)という議院内閣制を取っている事による特徴です。国際的に比較するとイギリス、ドイツ、オーストラリア等は同様ですが、国民が直接政府のトップである大統領を選ぶアメリカなどとは異なります。これに対して、①〜③は、程度の差はあれ、どこの国の国会議員もだいたい似たような権限を持っています。

上記の①「社会のルールである法律を作ること」が国会議員の本質的な仕事である以上、法律の専門家が国会議員になることがふさわしいと考えています。法律は非常に専門的な特殊な言語を使っており、一般的に分かりづらい部分がありますので、私は法律の専門家が国会議員になって法律を作るべきであると考えます。

しかし、日本の国会議員の前職が法律専門家という事例はそう多くはありません。地方議員、政治家秘書、国家公務員、政党役職員というものが多くなっています。1993年のデータではこれらで合計2/3近くなります。これに対して、法律専門家は5%程度となっています。
日本の国会議員に法律専門家が少ない理由は、国会が自ら法律を定めることは非常に少なく、国会の実際の仕事は内閣の提出した法案(案文は各省庁が策定しています)にイエス/ノーを突きつけるという仕事になってしまっており、法律専門家の重要性が認知されていないからだと思います。実際、日本の成立法案(1998年-2007年)のうち、内閣提出法が83.5%であるのに対して、議員立法が16.5%となっており、圧倒的に内閣提出法案が多いのです。
これは議院内閣制の特徴とも言えるでしょう。議院内閣制は、そもそも政権与党が自らの政策に沿った法律を政策スタッフである官僚の力を借りて実現する制度であるからです。イギリスやドイツにおいても、内閣提出法の比率が高い事が指摘されています。

この点、官僚の力を借りることができる与党政治家であっても法律の専門的な理解が必要になります。その理由は、政治家と官僚との間にある情報の非対称(知識レベルの差)を小さくする必要があるからです。政治家と官僚の間には、政策の中身についてと法律そのものについて、それぞれに情報の非対称があります。政治家と官僚の間にこういった情報の非対称があることによって、官僚は政治家の思惑に反して自ら/所属官庁の利益を優先した行動をとってしまうことができてしまいます。これを学術的にはプリンシパル・エージェント問題といいます。今まで、官僚が法律技術的な部分に抜け穴を作ってしまい、法律が有名無実化されるという事案が指摘されてきました。まさに政治家に法律的な理解が少ないなどの理由で政治による法文のチェックが機能していなかったからこそ起きていた問題だと思います。こういった問題の発生を可能なかぎり小さくするためにも、できるだけ多くの与党政治家には法律の専門的な理解が必要だと考えています。

また、野党政治家においても法律の専門的な理解が必要になります。政治主導を達成するには、議院内閣制においても、議員立法の活用が必要になってきます。議員立法とはまさに法律を作ることですから、法律の専門的な理解が必要になってきます。議員立法は衆議院で20人、参議院で10人の賛成があれば提出できるので、野党政治家であっても議員立法の活用は出来るのです。東日本大震災と続く原発事故以降、重要な議員立法が増えています。私が関与した国会事故調の設置を決めた「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」、除染について定めた「放射性物質汚染対処特別措置法」、福島からの移住の権利などを定めた「原発事故子ども・ 被災者支援法」などは全て議員立法です。こういった法律を実効性あるものにしていくためには、法律的に抜けや漏れがないか、きちんと確認しながら立法をしていくことが必要です。その際、政治家に法律の専門的な理解は不可欠だろうと考えています。制度上議員立法の多い米国の連邦議会では、法律専門家が議員となっている例が多く、1989年のデータでは1/3を超えています。

日本でも法律専門家が国会議員になるという事案が増えればいいと考えています。

参考:
社会実情データ図録 国会議員の出身職業(国際比較)
日経ビジネスオンライン(2011年10月18日)金野索一
「第1回 日本の政治を変えるためまずどうする?~「政治変革3.0」のススメ」