野田総理は、本年8月に、谷垣自民党総裁(当時)との間で、「近いうち」に衆議院の解散及び総選挙を行うという約束をしたとされています。
現在、新聞やインターネットなどでは、この「近いうち」の解釈をめぐって、年内解散だとか年明け通常国会冒頭解散だとか、様々な憶測が飛び交っています。
この解散の条件として、野田総理は、 ①赤字国債の発行に必要な特例公債法案の成立、②衆院小選挙区定数の「0増5減」と比例定数40削減のための関連法案の成立、③社会保障制度改革国民会議の設置を挙げています。自公両党は、この3条件を現在開催中の臨時国会内で決定することを促し、年内解散を誘導するものとされています。

さて、ここで論点としたいのは、衆議院の解散にあたって、②衆議院小選挙区の定数「0増5減」と比例定数40削減を定める公職選挙法改正の成立のみで本当に問題ないのか、という点です。

(1)問題の背景
2009年8月に行われた第45回衆議院総選挙において、最大2.3倍の議員定数の格差がありました。憲法上、私たち国民は、形式的に一人一票の投票券が保障されているのですが、その一票の実際的な価値については地区ごとにバラバラであり、投票の価値の格差があることが「法の下の平等」を定めた憲法14条に反しないのか、という問題です。

小選挙区という制度では、1選挙区から1人の議員を選出します。この小選挙区割りに不平等があるのではないかということが問題なのです。具体的に、人口50万人弱を抱える千葉4区と人口20万の高知3区で、双方とも1選挙区から1人の議員を選出するわけです。これを、国民1人1人の視点から見直すと、千葉4区(船橋市)では、国民1人の投票価値は、50万分の1議席になりますが、高知3区(土佐市・四万十市など)では20万分の1議席になります。土佐市や四万十市など高知3区の住民の意見が、船橋市の住民の意見の2.3倍も重んじられている、という状況が生じています。
このように現在の選挙区割では、地方の住民の方が都市部の住民よりも投票価値が高いという状況になっています。そのため、民主党、みんなの党といった都市型の政党と自民党 といった地方型の政党で比較をすると、どうしても都市型の政党が弱くなる、という傾向にあります。

(2)2011年3月23日付最高裁大法定判決
2009年8月に行われた衆議院総選挙の選挙区割を定めた公職選挙法について、最高裁は、上記の投票価値の格差を基礎づける「一人別枠方式」という区割りの定め方について合理性がないと断じ、法の下の平等を定めた憲法14条に反する状態にある、としています。その上で、最高裁は、憲法がこういった違憲状態について合理的な期間内に是正することを要求しているという前提のもと、公職選挙法自体については、違憲状態を解消すべき合理的な期間内に是正されなかったとまでは言えないという理由で、公職選挙法自体は憲法14条の定める法の下の平等に反しないという判決を出しました。

(3)最高裁判決の意味
① 判断の基礎となる対立概念
議員定数不均衡問題を語るにあたり、考えなければならない大きな2つの価値は、(i)投票価値の実質的平等という国民の権利、(ii)選挙区割を定める立法府の裁量権、です。

(i)憲法は、普通選挙を定めており、これにより国民(実際には有権者)は1人1票の原則が形式的に保障されています。しかし、選挙区割の定め方によって、実質的に1人当たりの投票価値が異なりうる事は上にも述べたとおりです。この点に関しては、国民主権という基本的な憲法上の原則を考えると、国民1人当たりの投票価値が実質的に平等であることまでも憲法上で保障されている、と考えられています。

(ii)他方、国会議員は全国民の代表であり、この全国民の代表としての国会議員の選び方については、小選挙区と大選挙区、比例代表、これらの併用などなど様々な可能性がありえます。どの制度も一長一短であり、完璧な制度などありません。そのため、多様な民意を反映して、公正かつ効果的に国政の運営を行うために、どの制度を採用するのが望ましいか、については、憲法は国会に広範な裁量権を与えています。そういう意味で、どの制度も一長一短なので、小選挙区だからダメ、中選挙区に戻すべきだ、とか、完全比例代表にすべき、という議論は、主張する人によるポジショントークである事が多いです。

② 違憲判決が出される場合の基準
上記の2つの対立概念を調整しつつ、より国民の投票価値の平等に関する権利を保障するために、裁判所は、(i)議員定数を定めた法律が、憲法の要請する法の下の平等に反する状態にあること、(ii)その状態が国会の裁量を踏まえても限界を越えていること、を満たす場合に、議員定数の不均衡について違憲と判断することができると考えられています。

(i)については、諸説ありますが、最近では、衆議院では議員定数の不均衡が最大2倍を超えた場合には、1人に2票認めたのと同じ効果があると考えられるので、違憲の状態にあると判断される傾向にあります。
(ii)については、国会が、議員定数の不均衡が違憲の状態にあることを認識しつつ、合理的な期間を経過しても改正しない場合に、裁量権の限界を越えていると判断されるとされています。この合理的な期間がどの程度か、という点には5年程度、という考え方が一般的と思います。

③ 公選法の選挙区割について違憲判決が出た場合の効果
選挙区割を定めた公選法が違憲と判断された場合、公選法の選挙区割が無効という事になり、当該区割に基づいた選挙そのものが無効という判断が出されることになります。
選挙自体が無効になると、議員がいなくなるという困った事態が生じます。選挙が無効であったという判決が出されるまでの間に、国会が定めた法律は、全て無効な選挙に基づき選ばれた議員の作ったものということで、民主的に正当性が認められないという困った事態も生じます。

そのため、この困った自体を生じさせないために、裁判所は、違憲の状態を宣言するが、合理的期間の経過を認めないなどの理屈で、選挙全体の無効判決までは出さない、という傾向があります。

④ 判決の意味

公選法の選挙区割のうち、一人別枠方式、というものがあります。一人別枠方式とは、衆議院の小選挙区300議席のうち、まず47都道府県に1議席ずつを「別枠」として割り当て、残り253議席を人口に比例して配分する方式。人口の少ない地方に比例配分より多めに議席を配分し、過疎地の国民の意見も国政に反映させることが目的とされています。

今回の判決は、この一人別枠方式には合理性がなく、これこそが議員定数不均衡をもたらした諸悪の根源だと考えており、この一人別枠方式を定めた公選法の規定が憲法14条の定める法の下の平等に反する状態にある、と判断しました。

その上で、国会は合理的な期間内にこの不平等を是正しなかった訳ではない(要は、改正に必要な合理的な期間は超えていない)として、公選法の規定そのものを違憲と判断することまではしていません。

そして、裁判所としては、異例だと思いますが、非常に突っ込んだ記載をしており、合理的な是正期間内に一人別枠方式を廃止して、あらたに選挙区割を行って議員定数不均衡を解消する必要がある、と国会にボールを投げています。

(5)0増5減さえすれば足りるのか?
最高裁は、議員定数不均衡の諸悪の根源が一人別枠方式の存在だと言っています。
そして、これを改正すべきである、と明確に断言しています。

今国会で話題になっている、0増5減とは、現在の一人別枠制度を前提として、福井、山梨、高知、徳島、佐賀の5県の議員定数を3人から2人に減らす(これらの5県の選挙区割を3区から2区に変える)という改革です。

私は、裁判所はこのような小手先の修正を要求しているのではなく、真に国民の意見を反映するための選挙制度をつくる抜本的な改革をすべきという意味だと理解しています。この0増5減という形であれば、見た目上最大2倍を超える議員定数の不均衡は解消されるかもしれませんが、いずれ同じ問題が生じるのです。

今回の0増5減という小手先の改革案は、自民党から出た案を民主党が丸のみしたと言われています。当然、自民党は、自らの地位を危うくする改革案を主張するわけもありません。一人別枠方式を廃止すれば、当然、地方票に依存している自民党にダメージがあるのです。そのため、自民党はこのような小手先の修正に過ぎない案を出してくるのです。これに基づいた選挙がなされても、従来からの農村部の意見が重視された自民党の政治に戻るだけでしょう。

私は、最高裁の意見は軽んじるべきではないと思っています。最高裁が上記のように突っ込んだ判決を出した以上、次は選挙無効の判決を出すことまでを念頭においていると考えなければならないと思っています。今の0増5減案だけで議論している国会の状況は、裁判所は国政に混乱を来すような選挙無効の判決は出さないだろうという安易な考えに基づいているとしか思えません。これは、裁判所軽視の立場に他なりません。裁判所を軽視するということは、主権国家を構成する三権のうちの一つを軽視するという意味であり、憲法秩序そのものの軽視だと思います。

今は、時代の変革期です。時代の変革期においては、根本に立ち返って原則論から議論をすることが、時間はかかるように見えるかもしれないけれども最短の問題解決方法だと思います。小手先の問題解決をしている限りにおいて、問題解決は先送りし続けていくことになるので、同じ問題が将来にわたって繰り返し発生し続けることになるからです。小手先の解決では前に進めないのです。

みんなの党は、衆議院の選挙について比例代表制に改革することを主張しています。比例代表であれば投票価値の不平等は解消されますし、最高裁が国会に投げたボールには一定程度答えていると思います。その意味で、十分いいアイデアであると思っています。ドイツ連邦議会やニュージーランド議会についても、比例代表をベースとして、小選挙区制度を併用する制度を採用しており、一票の格差をなくす比例代表をベースに考えていくことは、公平な制度であると思っています。

もちろん、みんなの党が都市型政党であることを前提とし、都市型政党に有利になるような選挙制度を主張しているという意味で、ポジショントークであることは否定しません。私自身、所属する党の主張を超えて、自分なりにベストの解決方法を持っているわけではありませんが、自分なりに最善の方法を考え続けていきたいと思います。

(6)個人的な感情の発露
どうも、議員定数不均衡の解消が、衆議院の解散総選挙を先送りするためのカードとして使われたり、また解散を早めるための手段として使われたりしているという現状が気に入りません。これぞ国民不在。本当に国民のためになることを根本論、原則論からきちんと考えて議論をしていくことが、国会議員の役割だと思います。国会議員は、全体の奉仕者なんですから。

これ自体、現職の国会議員が国民のことを考えないで政局ばかりに汲々としているから悪いんだとはあまり思っていません。国会議員が衆議院解散をカードに使うことがインセンティブとして組み込まれる制度になっていることが最大の問題点だと思っています。つまり、衆議院の解散が政治権力を上手く使うための政治家のカードとして使われてきたという制度上の問題だと思います。解散は、選挙時点の民意では測れない重大イシューについて民意を問うためだったり不信任の場合だったり、という例外的な場合にのみ使われるべきものだと思っています。憲法でも基本的には、本文と但し書きの関係からわかるとおり、解散により任期が満了しないうちに議員の在職を解かれることはあくまで例外であるべきなんだと思っています。

私が英国にいた際に感じた英国の政治の実務を見る限り、解散権が政争の具になることはあまり無かったように思います。概ね満期近くなった頃に慣習的に首相が下院を解散する、ということが常態化しています。こういう慣習又は成文憲法を作るための議論を続けることによってのみ、政治が安定していくと思いますね。

参考資料:最判平成23年3月23日(平成22年(行ツ)第207号)議員定数不均衡事件
衆議院及び参議院における一票の格差 国立国会図書館 Issue Brief